捨てたはずの恋愛感情……そして負った心の傷……(前編)
2016年5月、飛行機部品の製造会社を半ば追い出されるようにして退職した。
次に選んだ仕事は、給湯器の部品を造っている会社だ。
ここで僕はすっかり忘れていた、そしてとっくに見切りを付けていたと思い込んでいたある感情に苛まれることになる。それは……「恋愛感情」である……。
当時もうすでに30歳を過ぎた大人だったというのに、あろうことか職場のとある女性のことを好きになってしまったのだ。好きになった理由は特にない。ふとした瞬間から何となく彼女のことが気になってしまい、いつの間にか彼女のことが頭から離れなくなってしまったのだ。おそらく前職で受けた傷を何らかの形で癒したいという心理が働いたのかもしれない。所謂「魔が差した」というやつだ……。(前職についての詳細は以下の記事にて…)
正直嬉しさよりも戸惑いの感情の方が大きかった。
なぜなら僕は過去の経験から、常に自分のことで精一杯で他人を思いやることが出来ない自分は恋愛には全く向いていないと思っていたからだ。事実そのように自分という人間を鑑みるようになってからは、女性に対して特別な感情を抱くことは一切なかった。要は悟りを開いていたつもりだったのだ。なのでそのように自分の中でとっくに見切りを付け、ある種の悟りすら開いていたと思っていた感情が今さらのように沸き起こったという事実に、僕は大いに戸惑ってしまったのだ。
そもそも30歳を過ぎた、しかも非正規雇用で働いているような男が、今さら若い女性を好きになったところで、ろくな結果にならないことは分かり切っている。冷静に考えれば、諦めた方がいいに決まっている。しかし、それでも僕は彼女のことが頭から離れなかった……。
純粋に彼女が好きだという気持ち……捨てたはずの感情が突然発露したことへの戸惑い……冷静に状況を鑑みて諦めようとする気持ち……。様々な気持ちがない交ぜとなって、毎日とても辛かった……。だが何よりも悟りを開いていたつもりで、全く開けていなかった己に対する失望感が最も大きかったかもしれない。思い煩ってしまっている自分がとても情けなかった……。
……と、ここまでなら世間によくある年甲斐のない恋愛に身を焦がそうとする哀れな男のエピソードに過ぎない。問題はその先のエピソードである。そのエピソードとそこで僕が抱いた感情は、現在に至るまで苦しめられ続けているトラウマを僕に植え付けることとなる……。続きは次回へ……。